日本語が母語であるメリット

以前から「これからの国際化社会では英語が必須だ」「日本人は英語力が低いから世界から取り残される」といった、英語力の低いことが悪であるかのような言説を耳にするたびに違和感を覚えていました。

そしてインドへ来て、日本人全体の平均的な英語力が低いことはデメリットばかりではなく、メリットもあるという思いが確信に変わりました。

 

メリット1:社会が分断されない
インドは州を跨ぐと全く言葉が通じず、英語しか共通言語がないため、インドの高等教育は全て英語で行われ、ホワイトカラーのビジネスではインド人同士でも英語で会話し、英語さえ話せれば現地のヒンディー語タミル語を一言も話せなくても暮らせます。

実際、私が仕事で接しているインド人は皆さん(発音や文法が多少おかしくても)英語がペラペラです。しかし、インド人全体のうち英語を使えるのは11%しかいないそうです(とはいえ1億人以上ですが)。

ということは、英語ができない残りの89%は頑張っても社会的地位を上昇させられません。しかも、本屋へ行っても英語の本が大多数なので、英語ができないと知識も吸収できず議論にも参加できません。

実際、英語ができる人とできない人との差は町を歩いているだけでも(身なりや食べているものを見るだけでも)歴然です。日本人の英語力が低いのは、日本の生活で英語が必要ないためだと個人的には思っています。

これは言い換えると、母語である日本語で学問やビジネス、社会生活に必要な知識を吸収でき、英語ができない人でもビジネスや政治に参加できるということです。

もし日本の大学教育が全て英語で行われ、ビジネスも全て英語で行われるようになったら、優秀な人達は世界と互角に戦えるようになる反面、そこへ着いていけない人達との間で大きな亀裂が生じる可能性もあります。

日本人の低い英語力が、日本社会で英語が必要とされていないことの産物だと考えれば、そのお陰で日本社会が分断されずに日本人全体の平均的な生活水準を底上げしているという点でメリットがあると言えるように思います。

 

メリット2:日本語が参入障壁になる

「そもそも日本人全員が英語ペラペラになれば、社会は分断されないのではないか?」という考えもあると思いますが、一方で「日本語が母語のお陰で助かっている」と感じることもあります。

インドの就労ビザは(昨年までは)年収USD25000以上であれば必ず下りますが、以前インドの就労ビザについて調べていたとき、確か英語版Quoraでアメリカ人が「インドに行きたいが、USD25000の年収がもらえる仕事なんて見つからない。もっと安い給料で住める方法はないか?」という質問をしていました。

それに対して大勢の人が「USD25000の年収がもらえなくてもインドに住む方法」を提案していましたが、このQAを読んでいてとても不思議に思いました。なぜなら、日本の人材エージェントからは「インドでは日本人不足のため年収USD25000のハードルはそこまで高くなく、新卒でもその程度の給料は出る」と聞いていたためです。

中国や東南アジアのように就労ビザに学歴要件などはないため、インドは他の国に比べてかなり来やすいイメージでした(来てからが大変ですが)。このギャップは何だろう?と考えていたとき、ある仮説を思いつきました。

インドでは、ホワイトカラーは誰でも英語が話せます。ということは、英語ができることは何の強みにもならず、つまり、何のスキルもない英語の母語話者には何の市場価値もありません。

インドの現地語ができない分、インド人より市場価値が低いかも知れません。インドに進出したい英米の企業はそのままインド人を採用できますし、インド人はそのまま英語圏で仕事ができます。

従って、一般のアメリカ人がUSD25000の年収をもらってインドで働くというのは大変なことなのだと思います。インド人はホワイトカラーの大卒でも新卒初任給が年収USD5000くらいらしいので…。

ところが、日系企業がインドに進出するときには語学の面で問題が発生します。更に日系企業の場合、日本語だけでなく日本式のビジネスマナーも要求されます。

この要求に適応できるインド人は少ないため

「日本語ができて日本式のビジネスマナーが分かれば、英語や海外経験についてはインドで身につけてもらえば良い。USD25000の年収を払ってでも良いから、インドで働いて欲しい」というポテンシャル採用のニーズが生じ、経験が浅くてもやる気と覚悟に賭けて採用してもらえることが多いと聞きます。

いわば、日本語が参入障壁となって日本人にチャンスが与えられ、その機会を活かしてインドという新興国でビジネスを経験することができ、英語力を鍛えることもできるわけです。また、同じく日本語が参入障壁となって、優秀なインド人もいきなり日本にやってくるのは難しいと思います。

もし日系企業の社員全員が英語ペラペラであれば、皮肉なことに主要なポストは優秀なインド人やシンガポール人に全て持っていかれてしまうかも知れません。

英語が母語の場合は始めから世界中の優秀な人たちと戦わなければならない状況に置かれるため(それはそれでメリットもありますが)、日本人にもメリットがあると言えるのではないかと思います。

もちろん、英語が使えることのメリットがあるのは承知しています。ただ、発想を転換すればデメリットもメリットになる可能性があるということは強く主張したいです。「アメリカ人かイギリス人に生まれてればなぁ」なんて考えても何も始まらないので、日本語が母語であることのメリットを考えた方が生産的ではないかと思います。

個人的には、英語ができる人の方が優れているわけでもないし、英語が苦手なことをコンプレックスに思う必要もないし、海外に興味があって英語が好きな人や、やりたいことを実現するために英語が必要な人だけが英語をやれば良いと思います。もともとそう思っていましたが、インドへ来て更にその思いが強くなりました。

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