人種や国籍の違いよりも大きな壁

外国人と接すると日本との違いに戸惑うことが多いです。しかし最近、国籍や人種の違いに関係なく、日本人であっても「分かり合えない」と感じる人達がいます。それは「〇〇すべき」を連呼して自分の考えを押しつけてくる人達です。

 

例えば日本に住んでいると「上司とは積極的に飲みに行くべき」「友達とは仲良くしないといけない」といった価値観を押しつけてくる人が誰でも身近に1人はいるんじゃないでしょうか? 中国人と接すると、こういった面倒なことはありません。中国人は日本人ほど会社の付き合いに人生を注いでない人が多いですし、友達付き合いも「みんなと仲良く」というプレッシャーは感じません。

 

では中国人が日本人に比べて自由なのかと言うと、決してそんなことはなく、日本とは違うプレッシャーがあります。それは「落ちこぼれてはいけない」「No.1を目指さないといけない」というプレッシャーです。

 

例えば、私が「インドへ移住する」と言ったとき、日本人からは総じて「新しいことにチャレンジするのはいいね」「凄い決断をしたね」という肯定的な反応が多い印象でした。反対された場合でも「治安大丈夫なの?」とか、「年金大丈夫なの?」とか、具体的な問題について心配されることが多かったです。

 

ところが、中国人の反応はだいぶ異なりました。「わざわざ日本からそんな遅れたところへ行くなんて、落ちこぼれなの?」「日本のような先進国で働く能力がないからインドに逃げるんでしょ?」「自分から貧困の生活に飛び込んでいくなんて、何考えてんの?」といった、日本では聞くことのない反応が数多く寄せられました。

 

中国人には「欧米の先進国へ行くのが勝ち組で、途上国へ行くのは負け組」という感覚があるようです(インド人も中流以上の人は同様な感覚を持っているようです)。中国社会は競争が激しく、何でも1番を目指さなければならないというプレッシャーがとても強いです。また昭和世代の中国人は国際貧困ラインギリギリの極貧状態から頑張って這い上がって来たという思いがあるので、インドのような途上国へ行くことは理解ができないようです。中国語には「落后就要挨打」(落ちこぼれたら叩かれる)という言葉があるそうですが、とにかく何事も勝ち抜くことが偉いとされます。

 

知り合いの中国人がフィリピンの語学留学へ行こうとした時にも、「どうしてフィリピンなの?英語留学と言えばカナダかオーストラリアじゃないの?」と言われ、「フィリピン留学は費用が安くマンツーマンレッスンが受けられて、カナダやオーストラリアよりも短期集中で成果が上がるんだ」という説明をしても中々理解してもらえなかったそうです。

 

しかし、では中国人が全員そのような考えを押しつけてくるかというと、そうではありません。中国人でもインドへ来て起業している人はいますし、「日本や欧米よりもインドの方が色々チャンスがあって面白いと思う」「知らない国で生活するのは面白いよね」と応援してくれる人もいます。

 

中国人から「遅れた国ではなく欧米の先進国を目指すべきだ」と言われると、「もしこの人が日本人だったら『上司との飲みは断らないべきだ』とか言い出すんだろうな」などと思います。つまり、それぞれの国に「〇〇すべき」というその国特有の価値観はあるのですが、その価値観に囚われてそれを人に押しつけてくる人と、その影響をあまり受けない人がいるのではないかと感じています。

 

私はインドに住んで半年経ちますが、インド人からは「〇〇すべき」というプレッシャーを感じたことはまだありません。ただそれは私がインド社会からかなり距離を置いて生活しているからです。インド人の話を聞く様子ではカーストや宗教の制約が色々あり、「女性が酒を飲むべきではない」などという人もいます。

 

そして、ヒンドゥー教徒同士でも「絶対に同じカーストの人と結婚すべきだ」と強硬に主張する人もいれば「違う宗教や外国人と結婚しても構わない」とオープンな考えを持っている人もいて、どこまで慣習に縛られて生活するのかは人や家庭によってそれぞれのようです。

 

こういった経験から最近感じるのは、世界のどこへ行っても「〇〇しなければならない」「〇〇すべきだ」という考えをもつ人と、「常識に囚われず自分らしい人生を生きるべきだ」と考えをもつ人がいるということです。そして、この違いは国籍とか人種の違いよりも遥かに大きいと感じます。何事にも「〇〇すべきだ」と考える日本人より、「自分らしさを大切にした方がいい」と考えるインド人の方が接しやすいです。

 

自分が「〇〇すべきだ」という考えを持っていると現地の「〇〇すべきだ」という人と摩擦を起こしやすくなります。例えば「仕事の納期は絶対に守るべきだ」と考える日本人は「仕事の納期より友人との関係を大切にすべきだ」と考えるインド人と確実に衝突します。こちらが「納期は大切だけど友人関係が大切なこともあるよね」くらいで構えていると、「友人関係も大事だけど納期も大事だよね」と柔軟に考えるインド人が助けてくれたりします。